「向日葵の丘」町おこしのための地域映画が成功しない理由?⑥ ロケ地が物語を壊す?

地元の魅力をアピール。観光客を呼び、町おこしをするための映画作りが各地で行われている。が、その多くが失敗しているのはなぜか? 今回は「ロケ場所」について書いてみる。
映画撮影をする前に必ず行われるのは「ロケハン」。ロケーション・ハンティングの略で、和製英語。撮影する場所を探すという意味。撮影をするには絵になる美しい場所。物語にふさわしい風景が必要。それを事前に探す。
その際、地元が映画に大きな協力をしていたり、地元が出資している映画の場合は、リクエストが出ることが多い。「この公園で撮影してほしいんです」「この美術館を使ってほしい」「この喫茶店でロケしてもらえませんか?」
理由を聞くと「この公園は観光目的で力を入れて作ったもので、映画を通じているアピールしたいんです」「この店は町の実力者が経営していて、今回の出資はその人が一番出しているので、機嫌をよくします」なんて理由が多い。

しかしだ。前回、書いた「地元の名産を劇中で紹介してほしい」と同じ発想。シナリオに公園のシーンがあるならいいが、なければ別のシーンを公園に置き換え、シナリオを書き直さねばならない。店も同じだ。そうすることで物語がおかしくなることが多い。
「何で、ここで公園に行く必要あるんだろう? 会社で話をすればいい流れなのに?」とか「この場面の会話は喫茶店でするような話じゃないのに、なぜ喫茶店で話をするの?」ということになる。もちろん、映画サイドも「それは難しい」と断るのだが、地元が大きな協力をしていると受け入れてしまうことが多い。
ただ、その種のやり取りは通常でも存在。タイアップと呼ばれる。2時間ドラマなどで顕著な例を見ることができる。ミステリードラマで、地方に犯人を追って行く。刑事たちはなぜか? 豪華な温泉ホテルに泊まる。そして従業員が「刑事さん。怪しい奴を見ました」といい、刑事たちはホテルの中を探して回る。が、結局、見つからない。
そのシーンはさほど意味がなく、犯人は別のところにいたりする。これがタイアップ。つまり、刑事がホテル内を捜査するという設定で、ホテルの施設をドラマの中で紹介しているのだ。大浴場、レストラン、庭園、ゲームコーナー、と、このホテルはこんなに充実した設備があるんですよーという説明のシーンなのだ。
もし、それをCMを作って紹介するなら何千万、何億という費用が必要。でも、ドラマの中で紹介してもらえれば、ゴールデンタイムなら何千万人が見てくれる。製作費もいらない。その代わりに撮影隊の宿泊費や宿泊費をタダにする。それでも数百万。それで全国放送でホテルの紹介がされるのなら安いもの。
それを「町おこし映画」でも、地元も、製作サイドもやってしまうことが多い。だが、考えてほしい。そんな見え見えのシーン。テレビで見る2時間ドラマだから視聴者は許すが、入場料を払って観る映画で観客はどう思うだろう?ちょっと映画に詳しい人が見れば、「タイアップかよー。こんなホテルの紹介シーンはいらないだろう?」と思われる。不必要なシーンがあれば映画のクオリティも落ちる。
そんなふうにして、地元は映画の中で宣伝できることを願い、製作サイドは経費を安く上げるために、地元からの提案を受け入れる。だが、それはテレビの発想だ。テレビは、無料だ。だから、多少、意味のないシーンや地元紹介場面があっても、許される。が、映画は入場料を取り、物語を楽しむもの。そこで町の紹介ビデオのように物語とはそぐわない場所が次々と出て来て、感動や笑いのある映画が出来るだろうか?

「たかが撮影場所だから、何処でもいいんじゃない?」と思う人もいるだろう。だが、ロケ場所はもう一人の主役。単なる背景ではない。主人公の気持ちを背景が代弁することもあるし。その美しい風景で撮るから言える台詞もある。その汚い場所に立つから意味をなす場面もある。それを地元が売り出したい場所に替えて撮影すれば、テーマや意味さえ違ってしまうのだ。それは感動や興奮が生まれないということでもある。
そんな大変なことになること。地元の人はまず考えない。「映画にワシらの町が映る。だったら、売り出し中の公園を!」というだけの発想。そのために撮影隊を接待。何とか公園を使ってもらおうと努力を続ける。それが物語が遮られ、感動が失われることに繋がることには気づかない。
出来上がった映画にその公園が映し出されると、地元の人たちは大喜びするが、東京の映画館で観る観客は「何で、ここでこんな公園が出てくる訳? ダメだなこの映画は。。。」と思うだけ。映画は惨敗、ヒットせず。町のアピールにもならずに終わる。
ここでもまた、地元の方々が良かれ!と思って、努力したことが裏目に出てしまう。だが、これは「町おこし映画」だけではない。他のことでも同じではないか? 「地元に美術館を作れば、子供たちは芸術と親しめる!」と田んぼの中におしゃれな建物を作る。が、客はほとんど来ない。儲かったのはゼネコンだけで、町は維持費に膨大な予算を毎年使うことになる。
本当に意味があることな何なのか? それを徹底して考えずに「美術館があれば芸術に親しめる」と建設に走る。「映画に公園が映れば宣伝になる」とシナリオを変えさせてロケしてもらう。でも、それらは無意味であることは分かってもらえたと思う。なぜ、自治体や町の顔役。実力者たちは、安易にものごとを運び、大きな失敗をするのか?
それは日本という国を見ても同じ構図を感じる。あれだけの事故を起こした原発を再稼働しようとする。電気は足りている。要はそれで儲かる一部の人たちがいるというだけ。日本全体のことを考えれば、もう終わりにせねばならないことは分かっている。目先の利益を追い、多くの人がバカを見るだけの行動は止め、真剣に考えねば、あとがないように感じる。「町おこし映画」を見ていると日本という国も見えてくる。

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2015年05月15日 Posted byクロエ at 20:28 │Comments(0) │町おこし映画の問題点
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