「『向日葵の丘 1983年・夏』撮影現場ルポ 撮影に帯同する前に」序文として
BY 映画文筆家 永田よりのり
太田隆文監督の新作映画の脚本を読ませていただいたのが、2013年の夏のこと(たしか7月頃、有楽町の居酒屋で渡されたと記憶している)だった。
その頃は、まだ僕の中ではその「新作映画の脚本を読む」ということに現実味がなく、太田監督の精力的な創作意欲にただただ圧倒されていた、と言ってもいいかもしれない。
だが、最初の脚本を読んで、心を掴まれてしまった。
脚本を読んで泣けてしまったのだ。
僕は「脚本を読んで泣けない映画は出来上がった映画を観ても泣けないものだ」と思っている。
まさにその新作脚本を読んで泣けてしまった、ということは、その映画が〃心に共鳴する何か〃を、持っているにほかならないということだ。
それを太田監督に伝えると、にやり、とされたのを思い出す。
脚本はその後、何回かの改稿を経て決定稿に。
その決定稿には、最初に読ませていただいたものからさらにエピソードに厚みがあり、洗練されたものとなっていたのは言うまでもない。
そして、2014年の4月末からは新作映画の撮影がスタートすることになった。
タイトルは「向日葵の丘 1983年・夏」と決まった。
今回の太田映画の舞台は、そのものズバリ〃映画的〃な世界。
時代は1983年と現在。
その30年の時間軸の中で、登場人物たちの心の動きが描かれていくことになる。
まだ携帯電話もDVDもなかった時代、高校生だった映画好きの女子生徒たちの青春と現在とを繋ぎ、本当に大事なこととは何だったのか? 伝えていくものは何なのか? を我々に提示していく。
主演となるのは常盤貴子。
最近では大林展彦監督の「野のなななのか」(2014年5月17日公開)に主演している。
実は大林監督と太田監督とは師弟の間柄。そんなことから常盤貴子の出演に至った経緯も一端にはあるのだ。
前作「朝日のあたる家」の撮影時では、頼まれたわけでもないのに、静岡県の撮影現場に帯同して、撮影現場ルポを書いた。
それが少しでも太田映画の宣伝になれば、と思ったからだ。
それがあり、劇場用パンフレットを書き、今回の新作映画ではオフィシャル・ライターとして、4月19日からロケ現場である静岡県島田市の撮影現場に赴くこととなった。
今回はスタッフらと一緒に寝泊まりしながらの、撮影現場帯同。また前回とは違った側面から映画撮影の現場をリポートすることとなろう。
新作はまさに〃青春映画〃のカテゴリー。
これまで太田映画を観る機会に恵まれていなかった人にはぜひ観てもらいたいと思う。
僕が太田映画を好きなことの理由のひとつに、描かれる題材を的確な演出で観せてくれることがある。
〃日本映画〃というカテゴリーにはかつてから、登場人物たちのやたらと長い感情表現を画面で見せられることがある。それは時として成功するが、だいたいにおいて「長い!」と感じてしまうことが多い。最近のデジタル化ではフィルムを使わない(かつてはフィルム代が一番の予算確保のひとつだった)からか、よけい安易にそうした場面が挟み込まれることもあったりする。
それがまずない。
それはつまり、観客の心が同じ場面にずっと立ち止まることをせずに次の展開についていけるということにもなり、ひいては映画を観ていくうえでのテンポの良さにも繋がっていく。
映画は観ていて「長いなあ」と思われたら最後。
もしもテレビドラマだとしたら、視聴者はすぐにチャンネルを変えてしまうだろう(そういう意味では、映画は観客が自分で選んでお金を払って観るので、最後まで観るという責任もあるのだ/しかし、途中で席を立つ自由も当然ある)。
もちろん、太田映画の特筆すべきところはそうしたテンポの良さ(しかしながらそれがあるゆえに、観客は映画の世界にどんどん引き込まれていくことにもなるのだ)だけではないが、それはここで僕がくどくどと説明するべきものでもなかろうと思うのでやめておこう。
なにより、観客が映画館で太田映画を観ることさえすれば、その映画が観客にとって心のどこかに残る大事なものを残してくれることは明白なのだから。そしてそれこそが太田映画の太田映画たる部分でもあるのだ。
最近は映画も情報の一部として取り扱われることが多い。
それゆえに情報をシャットダウンされてしまうと、そこからよほどの興味を持って探さなければ自分の欲している情報にたどり着くことが困難な時代。
大きな予算をかけた宣伝展開ばかりが映画のヒットに通じることではないとは思うが、宣伝がなければ情報が拡散していかないのも事実。
これからのルポが映画の宣伝の一環になり、「向日葵の丘 1983年・夏」が広く一般観客の目と心に届くことを願いつつ、僕は撮影現場に入っていく。
長い時間になるか、短い時間になるか、それは撮影現場に入ってみて体感することになるだろう。
本ブログでは映画宣伝の一環として、この撮影ルポを映画公開までに毎週1回の予定で順次アップしていく。
昨年からずっとこの現場ルポを待っているという読者の声もずいぶん聞いていた。
お待たせ。
「向日葵の丘 1983年・夏」がどのように撮影されていったのか、撮影現場はどんなものだったのか、をみなさんに想像してもらえるようなものになることを。
いよいよ次回から毎週金曜日アップで、「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポの連載開始します。
よろしくお付き合いくださいますよう。
2015年初春・映画文筆家・永田よしのり

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2015年01月10日 Posted byクロエ at 10:18 │Comments(0) │ルポ
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